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最高裁判所第三小法廷 平成10年(あ)2号

本籍・住居

名古屋市瑞穂区彌富町字清水ケ岡三六番地の二

会社役員

塩崎雄一

昭和九年二月一五日生

右の者に対する法人税法違反被告事件について、平成九年一二月八日名古屋高等裁判所が言い渡した判決に対し、被告人から上告の申立てがあったので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人石原金三、同林輝の上告趣意のうち、憲法三九条違反をいう点は、原審で主張、判断を経ていないから適法な上告理由に当たらず、その余は、量刑不当の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 元原利文 裁判官 園部逸夫 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信 裁判官 金谷利廣)

平成一〇年(あ)第二号

上告趣意書

被告人 塩崎雄一

右被告人に対する法人税違反被告事件につき、弁護人らは、左記のとおり上告の趣意を提出します。

平成一〇年三月二六日

弁護人(主任) 石原金三

同 林輝

最高裁判所 御中

第一 本件について、延滞税及び重加算税の附帯税を課した上に、刑罰に処することは二重の処罰に当たり、憲法三九条に違反し、刑事訴訟法四〇五条一号に該当するから原判決は破棄されるべきである。

一 本件法人税法違反の一審被告人である大和株式会社、大洋観光株式会社及び東山株式会社(以下「三社」という。)の合計した申告納付税額は二億二九九四万四六〇〇円、修正税額は六億七一八六万八四〇〇円であり、脱税額は四億四一九三万三八〇〇円となる(以上は一審判決の認定した額であり、各社別の詳細は省略する。)。そして、この違反に対し延滞税及び重加算税として四億〇二四三万円を賦課され、三社はこれらも納付した。その上、その後本件刑事事件において、三社は一審判決で合計九五〇〇万円の罰金刑に処られて、原判決前に右罰金を完納し、被告人は原審で減刑されたものの、懲役一年二月の実刑に処せられている。

そもそも延滞税は年率一四・六パーセントであり、重加算税は年率三五パーセントである(国税通則法六〇条、六八条)。この率は民事法定利率の年五パーセント(民法四〇四条)、あるいは現状の年〇・五パーセント以下という史上最低の公定歩合その他金融界における貸付利率と比較すると極めて高率である。

民事法定利率の年五分は定期預金の一年ものの利率に相当するものといわれてきたが、現在の一年ものの定期預金の年率は〇・二パーセントから〇・三パーセント程度であるから、この民事法定利率自体が経済界の実情に合わなくなっている。さらに、これを重加算税と比較すると、民事法定利率の七倍、公定歩合の七〇倍、一年ものの定期預金の利率の実に一二〇倍となり、世人の常識をはるかに越えているところである。

このように、附帯税は刑罰以外の何ものでもないと考えられるから、附帯税を課した上、さらに罰金刑または懲役刑を課することはまさしく一個の行為に対して二重の処罰を課したことになるというべきである。

二 この点について、判例及び学説の見解は、附帯税は申告義務及び徴収納付義務の適正な履行を確保し、ひいては申告納税制度及び徴収納付制度の定着をはかるための特別の経済的負担であって、処罰ないし制裁の要素は少ないから、附帯税は刑罰ではなく、二重の処罰に当たらないという。

しかしながら、経済的な負担を課せられ、一定の金額を拠出しなければならないことによる痛み、困難を感ずる国民の立場からすれば、名目とか性質とかはまったく関係がないのである。刑事罰と行政罰とは目的が異なるというような見解はもっぱら国家、公共団体の側における論理にすぎない。右判例等の見解も「処罰ないし制裁の要素は少ない」から二重処罰にならないというが、附帯税が経済界における実態と比較して、前記の如く極端に高率である現状においては、もはやこれを刑罰と同一視せざるを得ないのである。

よって、本件法人税法違反事件について、附帯税を課した上、さらに本件刑罰を課することは憲法三九条に違反するものというべきである。

第二 原判決は以下に述べる諸般の事情からすれば、刑の量定が甚だしく重く、不当であるというべきであるから、刑事訴訟法四一一条二号に基づき原判決を破棄しなければ、著しく正義に反するものである。

一 被告人の経歴について

被告人は、昭和二五年に岐阜県恵那市で中学を卒業し、直ちに東京都内で自動車修理工として働き、昭和三二年に名古屋市内のプラスチック製品の販売会社に移り、次いで、昭和三四年に独立して合成樹脂の販売を目的とする和幸株式会社を設立して、その経営に当たり、さらに、ホテル、パチンコ店を目的とする東山株式会社を設立した。東山株式会社の営業成績が好調となってきたので、右和幸株式会社を廃業解散し、かくて、被告人は飲食店、パチンコ店営業の発展拡大に力を入れるようになり、昭和四七年に大洋観光株式会社、昭和五二年に日新株式会社、昭和五六年に東昭株式会社、平成元年に大和株式会社を順次設立し、その社長に就任して現在に至っている。

右各会社は、いずれも資本金一〇〇〇万円で、その株式の過半数を被告人が保有し、その他を妻、息子が保有する完全な同族会社であり、資金繰りを始め会社の業務はほとんどを被告人が掌握しているワンマン経営の会社である。

二 三社の営業の実態と犯行の動機について

1 右会社のうち東山株式会社、大洋観光株式会社、大和株式会社の三社はいずれもパチンコ店を経営する会社(そのうち二社は飲食店を兼営)であり、本件脱税事犯において、被告人と一審で共同被告人であったものである。三社は名古屋市内またはその周辺地域において店舗を構えて、営業しており、その従業員はパートタイマーの者を含めて合計九〇人くらいである。

パチンコ店の営業は、外見上盛大に見えるけれども、業者間の競争が激しく、たえず人の目をひく豪華な装飾や新鋭器機の取替、導入を図っていかなければ、顧客が離れてしまうという傾向が強く、短期間に繰り返し設備投資をする必要があるが、自己資金が十分でないために勢い金融機関からの借入金に頼ることとなってしまう。このようにして、三社の金融機関からの借入金は、平成四年が合計一七億円、平成五年及び平成六年がいずれも合計三〇億円を超えるという多額に達し、これに対する返済金が一か月に三〇〇〇万円を超える状況にあった。

しかし、納税時期になり、営業の決算書に表れた計算上の利益が大きくなっていると、それに基づく税金を納付した場合、直ちに借入の返済金に窮することとなり、倒産のおそれがある状態であった。

2 被告人は、もともと経理に弱く、経理の管理を従業員や税理士事務所委せにしていたため、計算上の利益とその税額に驚き、万一、三社が倒産するようなことになれば、被告人はもとより、当然のことながら、三社の約九〇人の従業員とその家族の生活を脅かす事態になるために、経営者としての責任からも、三社を倒産させないことばかりに心を捉われ、軽率にも利益を圧縮して税額を減らすことを図り、本件の脱税をしてしまったのである。

三 脱税の手法と税理事務所の関与について

1 ほ脱の方法

所得額を圧縮した方法としては、(イ)資産の減価償却について耐用年数を圧縮したもの(減価償却を前倒ししたものである。)、(ロ)資産を除去したものとして、損失として計上したもの、(ハ)資産計上すべき備品、設備(パチンコ機械、車両、建設費等)を消耗品又は修繕費として計上したもの、(ニ)特殊な景品の仕入を決算期末に過大に計上したもの、(ホ)他社に対する貸付金を仕入勘定として計上したもの、(ヘ)景品の仕入を被告人個人が支払ったものとして各決算期末に借入金として計上したもの、(ト)福利厚生費、仕入費用を過大に計上したものなどである。右のうちでもっとも額の大きいものは(イ)(ロ)及び(ハ)で、これらによる圧縮率が実に全体の約七五パーセントを占めているが、これらの手法は事業の継続性からみて経営者の思いつき難い事項である反面、税務の専門家(税務職員及び税理士など)から見れば、たやすく発覚される類の幼稚且つありふれた手法と指摘できる。

ほ脱の手法中、売上があったのにこれを計上しない(売上除外)ことがもっとも一般的かつ悪質な脱税と認められるが、被告人の場合はこのような売上除外はまったく行っていないのが特徴である。とくに本件はほ脱の方法にも後記2の如き税理士の事情が絡んでおり、必ずしも被告人の主導性、積極性を強調することは当を得ない点が存することに着目願いたいのである。

2 顧問税理士事務所の関与について

被告人の経営する会社は昭和四八年以来すべて和田繁雄税理士と顧問関係を継続してきており、昭和五三年頃からはその事務員である山本克志がその担当者として、専ら三社の経理事務の指導、決算書類の調整、税金申告の事務一切を担当していた。そして、本件に至るまで、格別の問題もなく推移してきたので、被告人としても、和田税理士及び山本事務員を信頼し、同人らが許容する範囲であれば、節税のための処理が直ちに犯罪に結びつくことはないと信じていたのである。

前記1の(イ)から(ヘ)までのほ脱行為は、被告人の要望あるいは関与があったとしても、直接には三社の顧問税理士事務所の山本事務員の手によって実行されたものである。ほ脱の手法は多岐にわたるものであるが、税務の専門家でない被告人がすべての手法を発案したものとは考えられないし、実際には、被告人が山本事務員と「何度も打合せを行い」、それに基づき、山本事務員が帳簿上の操作、決算書の作成、申告書の作成など犯行の実行行為をなしたのである(検乙第三号の二九頁その他検乙第四、第五号)。被告人は後述するように、昭和六三年一一月に脳下垂体腺腫の病気に罹ってからは、頭痛と視力障害の症状のために、細かい経理、数字にかかわることが困難になり、勢い山本事務員に頼ることが多くなっていたのである。したがって、本件犯行について、山本事務員の関与が大きく、同人が共犯者であることは否定できないところである。

又、和田税理士の関与は、本件公判の証拠調によっては必ずしも明らかにされていないが、税務申告書は和田税理士の名前で手続がなされているから、和田税理士がまったくほ脱の事実を知らなかったとするとこれには大いに疑問がある。仮に、顧問税理士が事情を知らなかったとしても、そもそも税理士は厳正に税務申告をする強い義務を負っている(税理士法第四一条の三)ことからすれば、少なくとも和田税理士に重大な職務上の怠慢ないし未必の故意があったし、被告人には専門家に任せたという安心感があったということができる。もし、和田税理士がその責任をもって厳正に申告事務を行っていたとすれば、被告人の本件犯行は容易に防ぐことができたのであり、和田税理士の職務違反は明らかである。

また、事務員といえども、税務の専門家がほ脱行為に関与していたということは、被告人の犯行に対する違法性の意識を薄くしていたことも否めないところである(もっとも被告人は査察開始以来、終始一貫自己の非と認め、いやしくも顧問税理士及び事務員に責任を転嫁するような態度は全く執っていない。)。しかし、和田税理士及び山本事務員が刑事上はもとより、何らの問責を受けていないのは甚だ公平を欠くものである。

四 ほ脱による利益の使途

ほ脱により得た利益は、すべて三社の借入金の返済に充てられており、被告人個人の蓄財、享楽には一切使われていない。このことは国税当局の厳しい査察によって個人に隠匿資産が全くなかったことが証明され、この点は国税当局も認めているところである。脱税事犯においては、個人的な隠匿資産が発見される例がほとんどであるのに対比して著しい差異があるところであり、被告人の有利な情状としてとくに斟酌されるべきである。

五 被告人の本件犯行に対する反省について

被告人は、国税当局による査察を受け、ほ脱が判明したことについて、素直に自らの非を認め、尓後、当局の調査に協力し、その指導に従って修正申告をし、修正された本税六億七一八七万八四〇〇円と重加算税及び延滞税の合計四億二四三万円を加えた合計一〇億七四三〇万円を金融機関から借入して納付した。

また、被告人は、本件犯行を深く反省、自戒し、本件の捜査、公判を通じて、公訴事実を終始すべて認めており、顧問税理士和田義春を解任交替させて、再度の違反行為を行えないように経理担当の整理をした。

六 被告人に対する捜査の実態について

被告人が自らの犯行について反省していたために前項のような態度をとったことは間違いない。しかし、被告人としても本件脱税に至るまでの実態、すなわち、被告人はもともと経理に弱く、経理の管理を和田税理士事務所の山本事務員に委せていた上、脳下垂体腺腫による頭痛、視力障害のため、さらにその手口からしても、被告人が主導的に本件犯行を犯したものでないことの実情を申し述べたいと思っていた。

しかしながら、被告人は、検察官から捜査に協力的でないと拘置所に入ってもらうとか(不拘束で取り調べを受けていたから、勾留するとの趣旨)、初犯だからたいしたことにならないとか(執行猶予が付く)、逆らったらだめだ等威迫と甘言をいわれて、自身の申し述べたいこともいわないままの態度で一審判決まで終始した(この点に関しては、末尾に添付した被告人の陳述書に記載されているとおりであるから、ご参照されたい。)。本件に関する被告人、山本克志事務員、和田繁雄税理士の検察官に対する各供述調書を総合してみれば、被告人ひとりだけが悪者になっていることが歴然として看取されるところである。

被告人は一審判決が懲役刑の実刑であったのに愕然とするとともに、捜査担当の検察官に対し強い不信感を感じ、その転勤先の検察庁に電話をかけて抗議したほどである。

このような捜査の実情は容易に法廷で明らかにできないことであるが、本件の処罰に関して十分に考慮されるべきものである。

七 被告人の前科、前歴について

被告人には、交通事故による一回の罰金刑以外には前科、前歴はなく、青年時代から真面目に働いて、無一物より今日のように数社の会社を経営するまでの地位を築いたのである。そして、交通安全施設の充実、コミュニティセンターの備品の充実など地域社会に対する奉仕活動を熱心に行い、昭和五七年から平成七年までの間、瑞穂区長、瑞穂警察署長及び千種警察署長らから合計四回にわたり感謝状を受けている。

八 更生保護施設に対する寄与について

更生保護施設に対する寄与について

被告人は、本件犯行を深く反省し、原審判決の宣告を受けた後、平成九年九月一二日に愛知県内各地の公的更生保護法人である東三更生保護会、立正園、愛知自啓会、岡崎自治会及び中協園の五つの更生保護法人に対し、更生保護事業運営のための資金として各六〇〇万円宛合計三〇〇〇万円の贖罪寄与をした。

右の寄付は、更生保護施設において、更生に努力している人々のために役立てて欲しいとの被告人の意思に基づくもので、その金額も個人の行う寄付としては、極めて多額であり、被告人の反省、贖罪の念がより深いことを示すものである。

そして、右の寄付に対しては、各更生保護会責任者から、感謝の念とともに「更生保護事業のため有意義に活用させて頂く。」趣旨の丁重な礼状が被告人に寄せられている。

九 被告人の病状が深刻で刑の執行に耐えられないことについて

一審判決及び原判決においても、被告人の病状については斟酌されているところであるが、病状の経過を上申する。

1 被告人は、きつい頭痛と視力障害の症状に悩まされ、昭和六三年一一月に名古屋市南区にある社会保険中京病院で診察を受け、二回にわたる入院・検査の結果、脳下垂体腫瘍(プロラクチン産生腫瘍)と診断され、投薬治療を開始し、腫瘍が縮小したが、平成三年には頭痛、視力障害が再発したため入院治療を受けた。その後も本件ほ脱行為の期間中において、腫瘍が縮小と増大を繰り返し、病状が悪化したため、脳外科の権威者である桑山明夫医師の勤務される国立名古屋病院入院し、平成八年三月に経鼻的方法による腫瘍の摘出手術を受けた。

右の手術により症状は軽快した。しかし、脳下垂体を全部摘出すると生命にかかわるということで一部を残したので、その部分に対し薬剤を一日も欠かせず持続的に服用して治療中であるが、腫瘍再増殖の危険があるため、今後も三か月から四か月毎に画像診断(CT又はMRIによる)が必要である。

2 血中ホルモン検査によると、血中ホルモン値は平成九年五月に二〇六ミリグラム、同年九月一七日に二四〇ミリグラム、同年一〇月一五日には三八〇ミリグラム(いずれも一ミリリットル当たり)へと増加している。正常値が一・七ないし一〇ミリグラムであることからすれば、異常に高い数値であることがわかる。

このため、被告人は頭が重く、痛い上、視力も低下する状態が続いている。主治医の桑山明夫医師(脳下垂体腺腫の権威者である。)は被告人が申し出ればいつでも手術をするとのことであり、現在服用する錠剤が二倍申し出ればいつでも手術をするとのことであり、現在服用する錠剤が二倍に増加し、その副作用として服用後一〇数分すると激しい尿意を催し、多量の排尿により、脱水状態になり、体がふらふらして倒れそうになるようなことが起き、全体的に不良な状況であり、原審判決後においても病状は改善されていない(末尾添付の診断書をご参照されたい。)。

3 脳下垂体は、大脳の視床下部の下にぶらさがり、頭蓋骨のほぼ中央、眉間の奥七センチメートル前後のところにあり、大きさは成人の小指の頭、重さは〇・五から〇・六グラムである。種々のホルモンを分泌する器官で脳下垂体腫瘍の初期の症状は視力障害、視野障害である。

脳下垂体の腫瘍は以上に述べたように難病であるから、刑務所内で労役に服しながら、専門医による適切な診断及び治療を受けることは相当に困難であると思料され、万一の事態が憂慮されるところである。

4 さらに、被告人は、右病気のほか平成五年五月に名古屋第一赤十字病院に入院して、左冠動脈回旋枝に狭窄があるとの診断を受け、冠動脈拡張術の治療を受けたが、軽度冠動脈狭窄が残存しているため、最近では、心臓に圧迫感が出現し、狭心症と診断され、治療を受けている。

5 以上のような病状のうえ、被告人の年齢(六三歳)の点を合わせ考えると、今後これら症状が軽快するものとは考えられず、もし懲役の実刑に服することになれば、生命の危険さえ憂慮される状況にあるものと思料される。

一〇 三社の現在の経済的な窮状について

すでに第二の二で述べたとおり、三社は多額の借金を負っていたが、その後の脱税額、重加算税、延滞税の納付のためにさらに金融機関から借入を受けたこと及び罰金額の納付もあって、平成九年八月三一日現在における金融機関からの借入金は、大和株式会社が合計一四億四二九〇万円、大洋観光株式会社が合計四億六一二五万円、東山株式会社が合計五億七三六〇万円で、三社合計で二五億一七七五万円となっており、現在の毎月の返済額は合計五九五五万円余となっている。

これに加えて、パチンコ業界は、一昨年までは三〇兆円産業といわれていたのが、最近では業界の機種の自粛変更から一五ないし一七兆円まで落ち込み、業績が著しく下降傾向にあって、一昨年までは全国で一八〇〇〇店舗あったパチンコ店のうちこの一年間で三〇〇〇店舗が閉店に追い込まれれている状況にある。

このような多額の借入金の返済のためにも、とくに最近の厳しいパチンコ業界を乗り切って三社の営業を推移してゆくためにも、経験の深い被告人自身が直接に経営に携わってゆくことが是非とも必要である。

一一 税法犯の特質について

1 法人税など税金のほ脱行為の保護法益は、国家及び地方自治体の徴税権の侵害である。この点で個人の生命、身体、財産などに対する侵害、あるいは国家・社会の安寧・秩序に対する侵害とは自ずから犯罪の性質が異なるのである。

税金に対する適正な申告義務を履行しないということにより、徴税権を侵害することが犯罪の特質であるから、いったん脱税行為が発覚して、修正申告に基づき脱税額を納入すれば、国家の徴税権は完全に回復され、法益侵害の結果が残らないのである。

被告人は、前記第一及び第二の五で述べたとおり、ほ脱行為(合計四億四一九三万三八〇〇円)が摘発された後、本来納付すべき税金六億七一八七万八四〇〇円のほかに延滞税及び重加算税の合計四億円余のすべてを納入し、かつ、原判決後には三社は判決に服し、罰金額合計九五〇〇万円を納入しているから、本件犯行により侵害された保護法益は完全に回復し、かえって、国家にとって約五億円の増収となっている。

2 一審判決及び原判決は、刑の一般予防の目的を重視しているが、刑罰は保護法益との均衡が必要であるし、保護法益が完全に回復できる性質の犯罪においては、刑の一般予防の目的を強調するのは相当ではないのではなかろうか。脱税に関する犯罪の性質については、戦前では行政犯と考えられていて、罰金刑のみが科され、しかも、その罰金額が脱税の額に比例して上限が定められていたのである。

すでに、第一で述べたとおり、重加算税及び延滞税は、極めて高率であって、刑罰の実質を有しているし、これに前記の罰金額を含めると約五億円を余分に納入しているから、本件犯行に対する制裁として必要かつ十分なものである。

税金の申告の実態について、かって、世評では「九、六、四」(くろよん)あるいは「一〇、五、三」(とうごうさん)という言葉が広く流布され、これらが真実味をもったものとして語られていたことがあり、現状においても異ならないであろう。かような状況のもとでは、たまたま脱税を摘発された者に対し、一般予防の目的との旗印によって安易に実刑処分を含む重い刑罰に処するということは、刑事政策としても妥当なことではないといえる。国民が税金の申告を適正に行うことは、日本のような高度な文化・福祉国家においては、本来、国民の納税に対する意識の高揚に待たねばならないことである。

一二 結語

本件三社のほ脱額が合計で四億円を超え、その罪責は軽からぬものがあるとしても、以上に述べたとおりの諸般の事情を総合考慮すれば、被告人に対しては、最長期間であっても、今回に限っては懲役刑の執行を猶予して会社経営を維持させることにより更生させるるのが相当であり、被告人に対し、この上実刑をもって処断することは著しく正義に反するもので、原判決は破棄されるべきである。

以上

<省略>

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